花と闇

「————っ、」
声にならない言葉で叫ぶ。

どうして、こんなに……

愛おしいのだろう。

「——、フラン!」
声で現実に引き戻された。
それは、クラウジアの声だと思考のどこかで認識する。
しかし、それに答える余裕もなかった。
勢い良く起き上がって、息を整える。
破損している箇所は手当てされているものの、血が滲む。
そして、汗をぐっしょりとかいていた。
血と汗がシーツを汚す。
「動いては駄目だ。」
「黙れ」
ヴォルフラムはクラウジアを突き放す。
軽く突き放したつもりが、派手に突き飛ばしてしまったらしい。
椅子と壁にぶつかる音がした。
「あ……」
“済まない”と言おうとして、先程の悪夢が浮かんだ。
ドロリとした血の感覚が現実でもないのに蘇る。
「去れ。」
低く唸った。
「フラン?」
「去れと言っている!!」
「どうしたんだ?おい!動いては身体が」
「煩い!黙れ!!」
クラウジアに叫び、点滴を体から引き抜き、本体を投げる。
「馬鹿、そんなに乱暴に抜くと危ないだろう。」
投げたことよりもヴォルフラムの身体を心配してるクラウジアにヴォルフラムは唸る。
「悪い夢でも見たのか?」
困ったように問う。
「ウ”ゥーーッ」
もはやヒトの言葉ではなく、獣のように唸るヴォルフラムにクラウジアは近付く。
「御前は動物か。落ち着け。大丈夫だ。」
そう言うクラウジアの言葉も既に届いていない。
爪と牙で攻撃するヴォルフラムにクラウジアは防御しながら近付く。
「フラン……」
(こんなに取り乱しているのを見るのは初めてだ。)
クラウジアは抱き締めた。
心音が聞こえる。
「大丈夫だ。」
もう一度言って、子供をあやすように背をゆっくりと叩いた。
「ガルルッ」
獣のように唸りながらも、暴れるのを止め、眠ってしまった。
「全く、大きな子供だな。」
緩やかになった心音に落ち着いたことを確信して安堵した。

駆けつけた看護婦により、綺麗に整頓された部屋にヴォルフラムは眠っていた。
クラウジアも黙って傍に居る。
日が暮れて、簡易ベットを用意してもらい、共に寝る。
「御前は、どんな過去を背負っているんだろうな。」
転生前のこと、自分と会う前のことを想像して目を閉じる。
「……辛かったか?苦しかったか?」
問いは誰に対してでもない。
「私にも、背負わせてくれよ。」
そう、願うように言う。