荒い足音で目を覚ます。


ゆっくり視線を彷徨わせて、
見えた彼女は酷く泣きそうで。


俺の眸もぐっと熱くなった。


最後に見せる顔が泣き顔になるなんて
絶対に嫌だったから顔の上に腕を乗せた。



「…………行くの……?」


ぴたり、俺の声に動きを止めて、こっちに振り向いたのが気配で伝わる。



『…………っ、うん…』


まだ。まだ、待って。


そう叫びたい気持ちを押し込めて、
彼女の最後の言葉を待つ。



『…………………さようなら…っ』





「…………ありがとう、さようなら」



最後に見えた彼女は笑っていた。


———…大好きだから、幸せになって。




時間をかけてベッドから抜け出し、
誰もいないリビングに足を進める。


ドアを開けた瞬間ふわりと香った
大好きな匂い。


「最後まで…作ってくれるんだもんなぁ」


テーブルの上に用意されていたのは
1人分のフレンチトースト。



「…………っ、あれ…?」


溢れた涙に声が出た。


おかしいなぁ…
さっきまで、なんともなかったのに。



「はは…、止まんない…っ」


———そっか。いないんだ、もう…。
彼女は……もうここには帰らない。



「っ、」


苦しい、痛い、辛い、悲しい。
そんな思いが結晶となって零れていく。


溢れる想いを止めるため、必死に眸を
こすっていると、ふと見慣れないもの
が視界に映った。



「て、がみ…?」


俺の向かい側の席…、つまり彼女がいつも座っていた席に置かれていたのは、一通の真っ白い手紙。



それには名前がなかった。
俺の名前も、彼女の名前も。


でも、丸くて小さな字は彼女のもので。
震える手で手紙を読んだ。




「………っ…」



静かに涙を流す。
もう止めることはしない。




『ちゃんとご飯食べてね』

『好き嫌いしちゃだめだよ』

『ソファーで寝ないで。ベッドで寝て』

『水族館で指輪貰ったこと忘れない』




『ありがとう、大好き』




Good-Bye Dear…








(さようなら、愛しい人)