目を覚ました朝。
外は昨夜の雨が嘘のように快晴で、
なぜか酷く泣きたくなった。
隣で今だ夢の中にいる彼の目元は赤く、
彼が強い人になりますようにと最後の
想いを込めてそっとそこにキスをした。
ゆっくりとシーツの波から抜け出し、
洗面所に行き顔を洗って、化粧をして。
服を着替えてから、彼の朝食を作る。
今日は、あいつの好きなフレンチトーストにしてあげよう。
気持ち悪くならないのかな、って心配に
なるほどシロップをたっぷりとかける人
だから砂糖は少なめにしないと。
————…ああ、ここまではいつも通り
なんだけどなぁ。
テーブルに用意するのは1人分だけ。
その光景を見たくなくて、すぐ寝室に
駆け込んだ。
まだ。まだ、待って。
そんな気持ちを押し込めて、少ない荷物を手荒に掴み寝室から出ようとした…けど。
『…………行くの……?』
大好きな彼の掠れた声が私の動きを
止めた。
「………っ、うん…」
ゆっくり振り向いて見えた彼はまだベッドに横になっていて、顔に乗った腕が邪魔をして表情は見えなかった。
言わなきゃ…言わなきゃ……っ
この言葉は私から言わなくちゃいけない。たとえこれが…———最後の言葉でも。
「…………………さようなら…っ」
『…………ありがとう、さようなら』
最後まで優しい彼の言葉を心に刻んで、
私は一歩足を進めた。
(さようなら、愛しい人)