2人とも黙ったままで、時計の針だけが
残酷に時を刻んでいく。



『俺は、』



静寂を破るように響いた掠れた声に
きゅっと心臓が苦しくなった。


ああ、大好きな彼の声だ。



どんなに辛くても、どんなに悲しくても。この日を、この夜を、忘れないために
私は必死に耳を澄ませた。




『お前が大好きだよ…』


私も。私もだよ。



『だけど、俺じゃお前を幸せに出来ない』


そんなこと、わからないじゃない。
勝手に人の幸せを決めないでよ。



『だから…行くな、なんて言えない』


そんな泣きそうな声で言わないで。
ほんと、泣き虫なんだから…っ。



『誰よりも、何よりも幸せになって』




さらり、と後ろに流れた髪を彼の指先
がすくった。


それだけじゃ全然足りない。
もっと触って…っ、もっともっと…。



なんて、そんなこと言えるはずなくて、
もどかしい気持ちを押し込めるように
下唇を噛み締めた。




『俺はさ、』



好き。好き。大好き…っ





『もしも結婚するなら、





———…お嫁さんはお前が良いな』





ああ、神様どうかお願い。
彼が明日も、明後日も、ずっとずっと。




『愛してる』





幸せでありますように…————。





嘘でもいいから、
(嫌いって言ってよ)




「私も……、愛してた……っ」








(私は明日、)
(彼ではない人と結婚します)