濡れた髪をそのままに、鏡に映る自分を
じっと見つめる。
「変…なの……」
あの人が好きだと言ってくれた長い髪を
切れば、この気持ちに区切りがつけると
思っていた。なのに…
『早く髪乾かしな。風邪ひくよ』
「うん…」
———…私はまだ、ここにいる。
短くなった髪を素早く乾かして、
彼の待つ寝室に足を進めた。
覗いた寝室には、見慣れた背中があって
今すぐにでもその背中に縋りたくなる。
『……雨、降ってきたね』
「…うん」
『明日には…』
「……っ、もう…寝よ…?」
『…………。そうだね』
遮るように響いた声は酷く弱々しくて、
それを感じ取ったように一呼吸置いて
振り向いた彼の顔を私はきっと忘れない。
差し出された手に自分のそれを重ねて、
ぎゅっと握りしめた温もりに涙が溢れ
そうになる。
シーツの波に足を滑り込ませて、
眠れもしないのに眸を閉じた。
まだ。まだ、待って。
イケナイことをしているのもわかってる。だけど、最後だから。
————…今日で、最後だから。