そして、迎えてしまった林間学校。
バスの席も隣という不運に見舞われ(同じ班の人と隣というルールなんだけど。)
早速、持ってきた本の活躍です。


「…………。」

「…………。」


永瀬も、近くの席の人と話せば良いのに、何故か押し黙ったままだし。
二人の間に、冷たい風が吹く。
…………夏なのに。



「(えー!犯人この人だったの!?)」


私が殺人事件の真犯人に驚いていると。







「………犯人、わかった?」





いきなり、永瀬が声をかけてきた。
私は、真犯人よりもその事に驚いて、思わず本を落としてしまう。


「……大丈夫?」



永瀬は、私が落としてしまった本を拾うと、ペラペラとめくった。


「これ、読んだことあるんだ。だから話したかったんだけど、まだ犯人知らないみたいだったから待ってた。」


永瀬はそう言うと、本を私に渡してくれた。

………そうか。永瀬はただ黙ってたんじゃなくて、私がいつ犯人に気付くか見てたんだ。

私と話すために………。


「もう一回読んだらわかるけど、132Pの三行目が、ヒントの鍵になるよ。」


永瀬はそう言うと、再び前を向いて黙ってしまった。

て言うか、永瀬って……。





「本とか読むんだ……。」






気付いたときにはもう遅い。
思ったことは、口から滑っていた。

いやいや。永瀬だって本ぐらい読むだろう。
そういえば、去年の夏休み本屋にいるのを見かけたんだった。


「意外?」


永瀬が、私の一言で再び私の方を向く。
こうして間近でみても、キレイな顔してるな………。


「あ、意外っていうか………推理小説好きなんだって思って。」


これは事実。
クラスで推理ゲームやった時も、全く参加してなかったし。

「あぁ……あれは、問題文の時点で、ヒントがなくても、答えがわかったから。
それじゃ作ったやつらがガッカリするかなーと思った。」


永瀬はそう言うと、私が持っている本を指差して、「でもこれは、結構面白い」と言った。

そして、自分の鞄から同じ作者の本を出して、私に差し出す。
多分、貸してくれるんだと思う。


私はお礼を言ってから、二冊とも鞄にしまった。





「………優しいんだね。」




「なにが。」


どうやら、持ってきた本は、ただのお荷物になりそうです……。