放課後になり、先程の数学のせいでぐったりなオレの頭を、無事に生きて帰ってきた真人がグーで殴った。

「あ、真人。お疲れ。」

「お疲れ、じゃねーよ!お前のせいで反省文だよ……。」

「大丈夫。オレもプリント10枚。」


真人と固い握手を交わした後、オレは教室を出た。
向かう先は、美化委員が管理してる花壇。

佐倉は、花を見つめていた。
それは、前の優しい笑顔じゃなくて、悲しそうな横顔。

思わず声をかけるのを躊躇うほど、儚かった。


「……あ、永瀬。」


オレの視線に気が付いた佐倉は、立ち上がって笑った。
藤井と同じような、作り笑いで。


「行こっか。どこが良い?」


胸のうちを悟られないように明るく言うと、佐倉はどこでも良いよ、と言った。
………どこでも良いよが一番困るんだけどなーと、どこかの主婦みたいな言葉を呟くと、佐倉は少し考えてから

「アイス食べたいな!」


と、満面の笑みで言った。


初デートがそんなんで良いのか少し心配になったが、まぁ付き合ってる訳でもないし、と言う結論に至り、オレが良く真人と行くアイスクリーム屋に行った。

まぁ、真人と行くぐらいだから、安いし、女子が行くような流行りの店でもないけど……。

隣の佐倉が喜んでるみたいだし、良いかな。

「ここ、一回来てみたかったの!私、小さくても種類を沢山選べる方が楽しいから!でも、女の子と遊ぶと皆で一個買って分けたりするでしょ?だから…………。」


佐倉は、ガラスケースの中のアイスに目をキラキラさせながらそう言った。
そして、オレの目を見て笑った。


「………ありがとうっ!」


佐倉は、目を細めて笑った。
夏なのに全く日焼けのしていない顔をほんのりピンクに染めて、佐倉は言った。


「っ………ああ………。」


自分の気持ちを自覚するのには、それで充分だった。