「条件ってなんだよ。」


そう聞くと、ハルは指を二本つき出した。
そして、また笑う。



「ひとつ!僕の計画を邪魔しないこと!」


ハルは、ノートのようなものを大事そうに持つと、これは僕の心臓だから、と言った。


「ふたつ!今日見たこと、聞いたことは、誰にも言わないこと!」


そして……一番恐れていた条件を出してきた。
つまり、これから殺される佐々木や三好を、見殺しにしろと言っているのだ。

佐々木も三好も、大事な友達だ。
普通ならそんな条件、呑むわけがない。
しかし………。





「もし言ったら、君も佐倉奈々も……殺しちゃうから。」








ハルは初めて、「殺人者らしい笑顔」をした。
口の端をあげて、ニヤリと笑う。




どっちを選ぶ?
佐々木逹と、佐倉。
佐々木逹と、自分。



………ごめん。やっぱり……。







「……分かった……。」






佐々木逹を選ぶ事は出来ない。

自分でも、最低だと思う。
中1からずっと仲の良かった佐々木より、佐倉を選んだ。

でも、ここで佐々木を選んだら…………後悔する。
結局、佐倉はどうでも良いのかって、自分が悩むと思う。



一年前、佐倉を見殺しにした自分。
今回、また佐倉を見殺しにしたら…………。



「そう言うと思った!じゃあ、契約完了ね!」


ハルは、また無邪気な笑顔に戻った。


「…………佐倉を傷付けるなよ。」


「もっちろん!」


ハルは後片付けがあるというので、先にプリントを持って教室を出た。

幸い、血はどこにもついていなかったのだが、急に降ってきた雨は、全てを洗い流してくれるような気がした。



このまま、記憶も全て、洗い流せたら良いのにな。
ハルの殺意も、多田が死んだという事実も全て。








消えて、無くなってしまえば良いのに。