「くっそー。八木じゃなければなー……。」


夜の10時。
深夜の学校にこっそり忍び込んだのは、トイレの花子さんを呼ぶ為でも、何故か音楽室から聞こえるピアノの音を聞くためでもない。

数学の宿題を机の中に忘れてきてしまったのだ。
八木とは、数学の教師で、宿題を忘れると一時間の説教に、プリントが20枚ついてくる。

どうしても、それだけは避けたい。
だから、こんな時間に学校にこっそり忍びこむしかなかったということ。


それにしても、お化け屋敷などとは全く違った雰囲気だ。
………いや別に、怖いとかは言ってないけど。
違うって言うだけで!
別に怖くないし!



………と、まあ多少の強がりも含めた言葉を吐きつつ、教室の前に立つ。
すると、多田の声がして、ガンッという鈍い音が聞こえた。


………多田もプリント忘れたのかな?と思いガラッとドアを開けると。







「いやぁあぁぁあ!!!!」






目に飛び込んできたのは、倒れた多田。



真っ赤な血。




鈍く光る包丁。




目の前の光景を受け入れてから、さっきの叫び声が多田のものであったと理解できた。





血。

真っ赤な血。







恐怖のあまり、声が出ない。
足もがくがくして、その場から動けない。


目を見開いたまま倒れている多田の隣に。








佐倉。



不適な笑みを浮かべながら、手に持った包丁をこちらに向けて歩いてくる。


「永瀬瑞季………。」


佐倉は慌てるでもなく、ゆっくりこちらに向かってくる。
そして。






「初めまして。ハルです。」





にっこり笑った。