世にも奇妙な話

 自分の家から二時間でハチ公前まで着いた。集合時間は十時。十時まで、あと十分ぐらいある。その間をどうしようかを考えた。そういえば、東京には初めて来た。もっといいところかと思えば、ごみごみとして汚らしい。

 そんなことを考えていると、ある男の横顔が目に入った。あの顔は、携帯の画像と照らし合わせてみると、それは純一であった。私は純一のもとに駆け寄った。

「あの、すみません。貸間さんですか」

「そうですけど…もしかして、江口さんですか」

「そうです」私の顔は自然にほころんだ。

「良かったー、会えたー」純一の顔は喜びで包まれていた。そして私に背を向け、明るく言い放った。「さぁ、行こう」


 純一とは手をつながなかったものの、友達という視点で楽しんだ。観光地へ行ったり、飲食店に入ったり。純一は東京のことをよく知っているらしく、いろいろと案内してくれた。しかも私に気を遣い、純一の優しい一面が見えた。変なことを言わないし、誰でも分かる話題を提供してくれたりと、理想の彼氏という一面も見せてくれた。

 そしてその楽しい一日もあっという間に過ぎ、赤い夕焼けが空を覆った。

「今日は楽しかった。いろいろありがとう」

「いや、俺こそ楽しかったよ。また遊びたいときに声をかけてくれよ」そう言うと、純一はにっこりと微笑んだ。

 私がその顔を見たとき、私は頬が紅潮するのを感じた。夕焼けに照らされ、私の頬はよりいっそうリンゴのように赤くなった。そして私はひとつのことを思い出す。「あ、携帯電話の番号を教えるわ。携帯出して」

 二人は赤外通信をし、互いの情報を交換した。

「じゃ、俺はこれで帰るわ。じゃ、また都合がついたら誘ってよ。俺は大体の日は大丈夫だから。じゃあな」

「じゃあね」私の声はさびしく風にまかれた。そして私の視線はただ一点を見つめていた。切なくなった心をふさぐように。