しかしそんなことは話題されるわけではなく、あれから一週間が経った。

 私はまたあそこに行けば、もしかしたらまた新たな手がかりを得られるだろうと思った。そして放課後、部活に行く前に、私は一人でそこを訪れた。

 中に入り、埃の舞う中を進み、また石の前まで来ると、それを持ち上げようとする前に触れただけで世界のスイッチは入った。

 まず見えたのが灰色の空。白黒テレビに写ったような空だった。よく教科書でこんな空を見たことがある。戦時中の空も、こんなのだった。

 壁に描かれた絵は大きくなっており、山に加えて、海、空、川が流れていた。やはりそれらも本物のようで、もしかしたら川は流れ出し、山はゆれ、海から日が昇るかもしれない。今の空とは対比で、どこまでも広がる空が見えた。鳥は巣から飛び立ち、空は夕陽に染められ、雲は流れ、川は透き通るようで魚が見える。そんな光景が想像できた。

 するとまた木の陰に隠れ隠れやってくる、少年の姿が見えた。少し大きくなったのではないか。またパレットを持って、辺りを見回し、壁に近づいた。そして描き始める。以前よりも異様な速さで描き始める。

 山の下に町を描いていた。港であろうか。そして隣に大きな時計台を描き始めた。そして鐘が鳴っている。そこからハトが飛び立っている。その下に広場があった。そこには埋め尽くす群衆の姿がある。何かを叫んでいるように見えた。何かを追求しているのか、求めているのか。あるいは主張をしているのか。

 次に大きな湖を描く。いや、海だろうか。背景には大きな入道雲があった。そしてただ、太陽が付け足された。

 その隣に円を描く。それを塗りつぶさず、ただ見ていた。構図でも考えているのだろうか。そういうわけでもなく、その円を筆で消した。

 最後に四角を描いた。その四角に向かって、思いっきり、筆を押し付けた。何度も、何度も、そのことを繰り返していた。何をやっているのか、不明なことだった。

 そして夢中だったらしい。犬を連れた兵隊が叫んだ。その声を聞いた途端、少年は驚き、一目散に逃げ出した。兵隊は追いかけた。