これはなんだろうと、私はそれに触れた。すると突然、吸い込まれるような感じがした。スーッと、体が軽くなっていくようだった。

 私は何も抵抗できないまま、あるところに行き着いた。

 ここはどこだろうか。見る限り、何もないところだった。上は暗い雲が覆い、右には灰色の壁が連なり、左には雑木林。殺風景な、何の絵にもならないところだった。時々人が通る。外国人の人だった。警察みたいな格好をして、犬も連れていた。私のことが見えないようで、私の横を何食わぬ顔で通り過ぎていった。

 私はとりあえずどこかに行こうと動こうとしたが、動けない。足も体もなく、客観的に見ているようであった。

 そしてしばらくすると、一人の少年がやってきた。筆とパレットを持って、走っている。壁の前まで来ると、少年は筆を走らせて、何かを描き始めた。それは鮮やかに彩られ、あっという間に描いた。山の絵だった。とても壮観で、きれいで、本物さながらに浮き出ていて、息を飲む美しさといっても過言ではないだろう。驚きに唖然とするばかりであった。

 しかしその絵を描くと、すぐに辺りを見回し、去って行った。

 すると体はまた吸い込まれる思いになった。そして元の倉庫に立っていた。

 早く行こうと友人が急かしていた。私はあの体験はなんだったのかと思いながら、その倉庫を一旦出ることにした。

 あそこは何だったのだろうか。異様な空間に誘われたようには行って、興味のままあの石に触った。するとあの世界はなんだったのか。外人しかいない。白人だった。兵隊みたいなのがいた。犬がいた。殺風景だった。高く虚しい壁がそそり立ち連なっていた。そして少年が絵を描いていた。

 誰の世界なのだろうか。私はただ、たじろぎながら考えるばかりだった。部活でも、帰りでも、夕食でも、風呂でも、勉強中でも、布団の中でも、考えることは同じだった。一日の後半の大部分が同じことを考えていた。あんなこと、他の人もなるのか。『時をかける少女』いはく、タイムリープも勝手に身に付けるものだと言う。それならばこれも同じようなものだろうか。