ある夏の夕暮れ。男と女は海岸を歩いていた。暑く燃える太陽がまぶしそうだが、それは海の小波にダイヤモンドを散りばめていた。

 男と女は互いに手をつなぎたいと思いながら、手をつなげないでいた。まだ付き合い始めて日も浅く、まともに面と向き合って話したのが告白した時だった。

 いい歳でまだそんな羞恥があるなんて、これからどうなるやら。

 二人の影は足長おじさんのようにのび、歩調はゆったりとしていた。何がやりたいのやらで、客観的に見たなら、もどかしく苛立ちを隠せないだろう。

 波の静かなる音が、風と共に仲良くやってくる。その並みに流されてきたのか、砂浜に貝殻が埋もれていた。砂からひょっこりと地表に出てきている貝殻があった。

 男はその貝殻に気付いて、彼女を止めて、それを拾った。

「これ…なんだろ?」

「それ、ハマグリじゃない?」

「きっと、波に流されてきたんだろうな」

 それは大きく、状態はきれいであった。貝殻を拾った男は裏を返し、その貝殻の周囲を見て、何か分析し始めた。そして気付いたことがあった。

「これ…よく見ると、なんか書いてあったみたいだな」

「何て?」

 しかしそれは文字ではないように見えるが、文字のように見える。

「もしかしたら、どっかの国の人が作ったものじゃない?」

「例えば、どんなの?」

「ん…そうだな…」