メルアドの変更メールを皆に送り終わった頃には、もうその迷惑メールのことなんかを忘れていた。しかしあいつのことはまだ頭から離れない。まだ心の中で、少しの後ろめたさがある。私の心が分からない。自分の心に素直になれないのが、今の自分の姿であった。

 そんなことを考えていると、手中の携帯が震えた。そして私は携帯を開き、受信箱を開けると「お願いだから返信して」との題名があった。無性にそのメールを開けたくなり、すぐにそのメールを開けると、「なんで無視すんだよ。ホントに俺はお前のことが好きなんだ」と書かれていた。

 しかし私の心は不信感でいっぱいであった。気持ち悪い、とは思ったが、これが誰なのかの興味がそれを超越した。
「あなたは誰ですか」と書いたメールを送ると、一分も経たないうちに返事は返ってきた。

「何言ってんだよ。俺だよ。貸間純一だよ。お願いだから、しらばくれないでくれ」との返事であった。しらばくれているわけではない。本当に知らないのだ。

 私は貸間という男に心当たりが無いかを探したが、見つからなかった。

 このまま進展が無いのはよくないと思ったので、貸間に返事を書いた。

「私は江口ですが、人違いではないですか」と書いたメールを送る。返事はすぐに返ってくる。

「すみません、何か人違いみたいで。俺、彼女に今日振られたばかりで…今考えられることは、そいつがメルアドの変更をして、あなたがそのメルアドを登録しちゃった感じになっちゃって…本当に迷惑をかけてすみません」

 私はそのメールを見て少し戸惑った。誰も私なんかを見ていないのに、急に羞恥心に駆られる。というよりも、こんな偶然があるのであろうか。その不思議な出来事を目の当たりにし、私は何も考えられなかった。頭の整理をするだけでいっぱいだった。

 五分が経ったことを知らずに、私は再びメールを打ち出す。「いえ、そんな、実は私も彼に嫌いだ、みたいな事を言われて、そんな彼を振りましたよ。何か、似たもの同士みたいですね」何を書いているんだ私。しかしそのまま躊躇せずに送信した。

「そうですか。何だか俺たちって気が合いそうですね」メールはすぐに返ってくると、私の手は自然に返信メールを打ち始めていた。