「純一…」私は目を覚まし、すぐに外套を着て外に出た。背後から母さんの声が聞こえたが、今の私には聞こえなかった。

 電車の中で揺られながら携帯を見ると、時刻はすでに八時であった。それもそのはず、家を出たのが七時であった。私は暗い外を眺めながら、純一の顔を頭に浮かべた。はたして待っているであろうか。二時間近くの遅刻で、この寒い外で待っているのがおかしいと思い、この可能性がなくなっていた。しかし私は決して純一のことを信じていた。


「いるかな…」私は不安になりながらも、待ち合わせの場所へ向かった。八時十二分。たくさんのカップルがこの通りを行き来している。

 そして待ち合わせ場所の木の下にたどり着いた。気にもたれかかり、そのまま五分が過ぎた。もしかしたら、と思い、木の周りを回ってみると、私が寄りかかっていた場所のちょうど後ろに純一はいた。まだ純一は私のことに気付いていない。そんな純一の背中に、私は純粋に飛びついた。そしてその時、純一はよろけた。

「純一!」

「…え、何…杏ちゃん…なのか」純一は私を見ると、優しく微笑んだ。

「ごめんね。本当にごめんね。好きなだったのに、会いたくないと思って…でも、会えてよかった」

「俺もだよ。もう会えないかと思った」純一は私の方を振りむくと、改めて抱いた。

 これが本当の出逢い。寒い冬の、雪が降り積もる、クリスマスの出来事であった。