タカラモノ~桜色の片道切符~

遮光カーテンの隙間から僅かな光が差し込んでフローリングの床を照らしている。


見上げた時計の針は9時過ぎを指していた。


気づかれないようにそっと美桜の体から腕を放すと、寝室を出てキッチンへと足を向けた



眠気覚ましのコーヒーを淹れていると、インターフォンが鳴った。こんな時間に来客の覚えはない。


「はい」


「俺」



一瞬目を瞬きつつも、オートロックを解除して件の人物を中に招き入れる


「これ」


「オーナー。どうして?」


「今回も愛美から。俺は届けただけ」


渡された袋には小さめの魔法瓶が2つ



「コンソメスープとポタージュ。どっちも胃に負担が掛からないようにしておいたって」



「ありがとうございます」



ゼリーに続き、見事としか言いようがない。



「気にするな」



「いえ。今回は本当に」



オーナーにも、社長にも迷惑をかけたはずだ。客だって減ったかも知れない



「お前のせいでも勿論彼女のせいでもない」



「……はい」



「わかってるならそんな表情(かお)するな。彼女を余計追い詰めるぞ」



肩越しにチラリと視線を寝室へと向け、少しキツイ眼差しを自分に向けた



「はい」



「暫く店のことは忘れてろ。心配するようなことにはなっていないから」



それだけ言うとオーナーは帰っていった