タカラモノ~桜色の片道切符~

「あげる」



「で、でも」


彼の手の中から私の腕の中へと渡るぬいぐるみ。




必死に断ろうとして、母親に助けを求めた。




「良かったね。ありがとう航大君」
今思えば不思議なこと。




物をもらうことにうるさかった母親が素直にそんなことを言うのは明らかに可笑しなことだった。





母親はこれが恐らくは永遠の別れだということを知っていてそんなことを言ったのだと思う。




そして彼の方はもしかしたら知っていたのかもしれない




あのときの私より大人だったのだと、10年以上の月日が流れて思い返すのだ。





そして、そのときのくまのぬいぐるみは今も私の宝物として部屋のソファーに座っている。












そのくまを見るたびに彼のことを思い出す。倖せでいてほしい






別れの日のような曇りのない笑顔で笑っていて欲しいと願っている。