拓海に押さえ付けられながら瞳を閉じる彩芽。


目の前の状況は見えなくとも、拓海の気配は間近に感じていた。



そして、拓海の息が顔にかかるのを感じると、彩芽は瞳と唇をきつく閉じた。












「……?」



しかし、彩芽が覚悟していたことは何も起こらなかった。


ただ感じるのは、目の前にいる拓海の気配だけ。



それどころか、右肘の辺りを突然冷たい何かが触れたため彩芽は驚いて瞳を開けた。




すると、彩芽の右肘に薬のようなものを塗っている拓海の姿が見えた。



「…あの、…何してるんですか?」

「何って、怪我してたから手当てしてやってんだろ」


それは、ここまで来る途中で彩芽が転んで擦りむいていた部分だった。



拓海は先程部屋を出た際に、手当てをするための救急セットを取りに行っていたのだった。




そして、素早く手当てを終えると

「ほらよ」

と言って、拓海は彩芽の両手を解放した。




「あ…ありがとうございます」



拍子抜けしたような表情を浮かべる彩芽。


そんな彩芽の様子に、拓海は意地悪そうな笑みを浮かべながら

「何か期待した?」

と、彩芽の顔を覗き込みながら聞いた。



「なっ…!そ、そんな訳ないじゃないですか!」

「お前、嘘つくの下手だな」


そう言って笑った拓海に、彩芽は全てを見透かされているような気がして恥ずかしくなった。







「…ほんとは、こういうこと期待したんだろ?」

「へ?」



拓海はその言葉と同時に左手はベッドの横の壁に、右手は彩芽の顎に添えた。


この状態から彩芽はあることを想像したが、またからかわれると思い平静を装った。





「目、閉じろよ」

「…っ!や、やだ…」



ここで応じてしまったら拓海の思うつぼだと感じた彩芽は、瞳をしっかりと開いて拓海を見つめた。












「…それ、逆効果だから」



その言葉の後、彩芽の視界には拓海の顔のアップが広がった。


そして…






「…っ!!」




次の瞬間、彩芽の唇に拓海の唇が重なっていた。