先程の女性がいた学生寮から数分歩いた所に、拓海が目指していた目的の場所があった。
「ここが、特別寮だ」
その言葉を聞いて辺りを見回した彩芽は、自分の目の前にある特別寮と言われた建物を見て驚愕した。
「こ、ここ…?」
「そうだ」
彩芽の目の前には、お城のような洋風な造りの豪邸が建っていたのだった。
「…とても、学生寮には見えないんですけど…」
不審そうな顔をしてそう聞いた彩芽だったが、拓海は彩芽の疑問には応えずに入り口に向かって歩を進めた。
彩芽も若干躊躇いながらそれに続いた。
そして、入り口の大きなドアを開け放った瞬間、彩芽は
「…わぁ!」
と、感嘆の声を漏らした。
「すご…」
床一面には絨毯が敷いてあり、上には高級そうなシャンデリア、目の前には大きな階段があった。
さらに、ドアの付属品から廊下に展示してあるインテリアまで、全てが彩芽には縁がなさそうな程の高級感を醸し出していた。
「…何?ここ」
彩芽は戸惑いを隠せなかったが、初めて見るようなインテリアの数々を興味津々に眺めていると、
「それ割ったら、自腹な」
と拓海に言われ、慌ててインテリアから離れた。
「じゃあ、お前の部屋まで案内するからついてこい」
そう言うと拓海が入り口正面の大階段を上がり始めたので、彩芽もその後ろからついていった。
「…他の寮生の人たちは?」
「今日は登校日だから今の時間は全員学校に行ってる」
建物内には他に人の気配がなかったため、彩芽は未だにここが学生寮なのか半信半疑だった。
拓海に続いて階段を上った先には複数のドアがあり、そのひとつひとつに名前が書かれたプレートのようなものがついていた。
そして、隅の方にはドアが開いている部屋があった。
拓海は、その部屋の前まで行くとドアを指差し
「ここが、お前の部屋」
と言って、彩芽に中に入るように促した。
彩芽が恐る恐る中を覗くと、そこにはシンプルな構造の部屋だが十分過ぎる広さを持ち合わせた空間が広がっていた。
「ここはもうお前の部屋だから、インテリアなんかの配置とかは好き勝手にいじってもらって構わない。今は必要最低限の物しか置いてないからな。何か他に必要な物があったら俺に言え」
部屋に入った途端、拓海は事務連絡を言い始めた。
「ちなみに、お前の荷物はそこ」
拓海が指差した方向を見ると、彩芽があらかじめ学生寮に送っていた荷物が段ボールのまま積み上げられていた。
その荷物を見て、
(本当に、ここが学生寮だったんだ…)
と納得したものの、戸惑いは隠せない彩芽だった。
「あの、ベッドがひとつしかないんですけど…」
「当たり前だろ。一人部屋なんだから」
(こんなに広いのに一人部屋!?)
長い間父とふたりでアパート暮らしをしていた彩芽にとっては、一人部屋としては勿体無いと思える程の広さだった。
その後、彩芽が部屋の中の物色を始めると、拓海が何かを思い出したような素振りを見せ
「ちょっとそこで待ってろ」
と言って、部屋を出ていった。
(それにしても、こんな所で生活できるなんて…もしかして、お父さんがいい所を選んでくれたのかな?)
これまで質素な生活をしていた分、今回は父が奮発してくれたのではないかと彩芽は考えた。
そして、彩芽は部屋の窓側に位置するセミダブルの広いベッドにダイブした。
(わぁ。フカフカだっ!)
これまでは床に布団を敷いて寝ていたので、彩芽にとっては念願のベッドだった。
(お父さん、ありがとう)
彩芽は父に対する感謝の気持ちを抱きながら、ベッドにうつ伏せになり枕に顔を沈めた。
