俺様管理人とイタズラな日々




声がした方を彩芽が振り返ると、入り口辺りにスーツを着た男性が立っていた。


男性は彩芽が自分の存在に気づくと、ゆっくりとした足取りで彩芽に近づき

「お迎えが遅くなってしまって、申し訳ありません」

と、頭を下げた。



「私は、特別寮の管理人の神崎拓海[カンザキタクミ]と申します」

「…特別寮?」

「か、神崎さんっ!?」


彩芽より驚いた声を上げたのは、先程までイライラを募らせていた女性だった。



「どうして、神崎さんがこちらに?」

「本日特別寮に入寮される学生さんをお迎えに上がっただけです」


そう言って爽やかな笑顔を見せた拓海に対し、女性は頬を赤らめ目が離せなくなっていた。



「じ、じゃあ、この子は特別寮に?」

「そうです。転校生の一瀬彩芽さんです」


その言葉を聞いて、女性は今度は彩芽を鋭い眼差しで睨みつけた。



その態度の変化に、彩芽はただただ戸惑っていた。







「それでは一瀬さん、特別寮までご案内いたします」

「あ、はいっ」


彩芽は特別寮とは何なのかよく分からなかったが、この場が丸く収まりそうだったので今は素直に拓海についていくことにした。












(…絶対今の女の人、この人のこと好きだよね)


特別寮に向かいながら、先程までの拓海に対する女性の態度と学生寮を出るまで背中に感じた鋭い視線を思い出し、彩芽はそう確信した。



そして、自分の斜め前を歩く拓海を見つめた。




(確かに、かっこいいもんね)



整った顔立ちの上にモデルのようなスタイルと長身ともあって、スーツがとてもよく似合っていた。


また、その柔らかな物腰と爽やかな笑顔は、まるでおとぎ話に出てくる王子様のようだった。



最初は管理人が男性と知り不安もあった彩芽だったが、いつの間にかそんな不安もなくなり彩芽自身も拓海から目が離れなくなっていた。





















「…何見てんだよ」


そんな中突然聞こえた低い声に、彩芽は驚いて辺りを見回した。



しかし、彩芽と拓海以外に周りには誰もいないため、首を傾げていると

「バカ。お前のことだよ」

と、目の前から再び声がした。




恐る恐る顔を上げると、そこには先程とは打って変わった表情で彩芽を見つめる拓海の姿があった。



「大体、俺を一般寮の方まで捜しに行かせるなんて、いい度胸してんな」


表情だけでなく口調まで変わった拓海に、彩芽は唖然とした。



(…だ、だれ?)

「変な顔」


驚きで目は見開いて口は半開きの状態にしていた彩芽を見て、拓海は可笑しそうにそう言った。



その言葉に、彩芽は恥ずかしさから頬を紅潮させ、

「なっ…!?だ、誰ですか!?あなたっ」

と、反射的に拓海から距離を取って聞いた。




「神崎拓海。さっき言ったろ」

「でででも、なんか、さっきと態度が…」

「ああ…あれは仕事用。言っとくけど、こっちがほんとの俺だから」

(…裏表激し過ぎない!?)


今だ状況を飲み込めずにいる彩芽に、拓海は

「よろしく」

と言って、フッと不敵な笑みを浮かべた。



そんな拓海の様子を見て嫌な予感しかしなくなった彩芽は、先程なくなった不安を再び募らせていった。