蝉の声が消える。
歓声も、解説の声も。
その中で、投げ出されたボールを太一はフルスイングした。
音も感じることもできないぐらいの、風を切るボール。
軽々とネットを飛び越えたボールは、応援席へ勢いよく落ちていった。
数秒だったと思う。
たった数秒の静寂の後、大きな歓声と共にタオルが鳴った。
興奮し過ぎて音が合わない吹奏楽部の応援曲が流れてくる。
やっぱり太一はヒーローだった。
ベースを踏みながら、仲間が待つホームへ走って行くと、皆に抱きしめられる太一。
一年ルーキーは下を向いて帽子を深く被りなおした。



