「ずりー。アイツ、俺には小言ばっかりだぞ? お前は親父かっての」

そう左手で突っ込みを入れる馬鹿な奏につい同調して笑ってしまう。

私も昨日、ピアスを買うか悩むときに同じことを思っちゃったんだもんね。


「奏がふざけ過ぎなんじゃないの? 気を抜いてたらキャプテンのくせにスタメン外れるわよ」

「何だよ。お前も小言ばっかかよ」

ブ―ブ―言いながらも、なんとか奏が当たる問題だけは解けた。
頭は悪くないから、努力すれば同じ高校に三人入れたかもしれないけれど、
奏は多分、こっちにしか来なかっただろうな。


「夏の高校野球さあ」


「え!? 何、突然」

奏からいきなりそんな言葉が出るとは思わなかった。


「いや、いつも俺ら三家族で夏休み、バーベキューしてるじゃん?
でも去年は太一だけ甲子園やら合宿やらで参加しなかったじゃん」

「そーいえば、去年も出場してたね」
去年の夏休みは一度も太一を見なかった気がする。
見たのは、九月の登園日だったかな。
真っ黒に日焼けした太一は別人だった。