「や、でもこれで太一君も部活や自分のことに集中できるんじゃない?」
「あはは。どうだろうね」
「なんか、太一君、まるで使命のように深雪に寄り添ってたからやっと甲子園が終わったぐらいに彼女ぐらいできるんじゃない?」
唯がお水を飲みながら豪快に笑うのと対照的に美緒ちゃんは寂しげに笑う。
「深雪ちゃんと奏くんはいつか付き合うかなって思ってたけど、もしかしたら少しはウチのお兄ちゃんも可能性あるんじゃないかなって思ってたのに」
えいっとクレープを頬張りながら美緒ちゃんが悔しげに言う。
「それは無いよ。私、太一に幼稚園の時に振られてるし」
「幼稚園とかノ―カンだろ。ってかお前も奏を振ってたじゃん」
「もう私の話はいいじゃん! 二人は誰か好きな人か彼氏とか居ないの?」
尋問を回避したくて、苦し紛れに話を変えてみたら、意外にも二人は乗ってきてくれた。
「そうなんです! 啓君って、彼女いるのかなって!」
「啓ってうちの弟!?」
高校に入ってサッカー部に入学したと思ったらチャラチャラして生意気になったアイツ?
「どこがいいの? ガキだよ」
「一緒に居ると、楽しくて可愛いし、話も飽きないし」
まるでノロケのように次々と啓の良いところを上げていく。
凄い。恋は盲目ってこんな感じなのかな。
呑気にそう思いながら、やっとクレープの味が分かりだしてきた。
「深雪が奏と付き合ったらな、私は太一かな」
唯の話を聞くまでは。



