″コツコツ″という乾いた靴の音
床から奏でられる規則正しいリズム

その注意していなければ聞き流してしまいそうな僅かな足音に反応し
アリシアの胸が大きく高鳴る。

…ルキア様だ。

足音は部屋の前で止まり、次いでドアが2回静かに叩かれた。

アリシアは急いでもう一度鏡を覗き込んだ。
朝には赤く腫れていた瞼もだいぶ落ちつき、跡も分からないほどになっている。

これで昨日の夜、泣いていたことはルキア様にも分からないだろう。

ジュリアは別の仕事で今はいないため、アリシアは返事をして扉を開けた。



「何かあったのか?」

だけど彼はアリシアの顔をみるなり、すぐにそう尋ねてきた。

「え…?」

ルキアはアリシアの目の高さにある横髪を軽く手でよけた。

「目が少し赤くなってる…」

何で……

なんでこの人はこんなにもすぐに気づいてしまうのだろう。

ジュリアも気づかなかったことに

迷惑をかけたくないと思っておきながら
小さな変化にも敏感で気遣かってくれることに嬉しいと感じている自分がいた。

………こんなの矛盾してる

「いいえ…何でもありません。」
アリシアは小さく微笑んだ。