彼が庭園に案内してくれたのはきっと部屋に閉じこもって塞ぎ込ぎこんでいた私を心配して…

でもあそこは私なんかが立ち入ってよい場所ではない

今度、部屋を訪ねてこられた時に一度でも庭園に入れてくださったことに感謝して鍵は返そう


「ルキア様、これをお返しします。
…お母様との思い出の部屋なのですよね?
私はそんな大切な場所の鍵をいただく訳にはいきません。」

目の前に差し出されたアリシアの色白な手。
その手のひらには自分の渡した金色の鍵が乗っている

母のことはきっとジュリアから聞いたのだろう

たしかにあの庭園は母の残していったものであってそれゆえ他人にその場に足を踏み入れさせたくなかった。

誰にも渡すことのなかったあの部屋の合い鍵
なぜそれをアリシアに渡したのか
…その訳は自分にもわからなかった。

ただ…花をみている時の頬を緩ませた彼女の横顔がとても印象に残っていた。

ルキアはゆっくりとアリシアに手を伸ばすと開かれていた手のひらを握る形にし、鍵をもう一度包み込ませた。

「…?」
「ならばお前に庭園の管理を任せる。」
「私に…ですか?」
「俺は忙しくてなかなか手入れまでしてやれないからな。
だから……その合い鍵はお前がもっていろ」

鍵を隔てて重ねあわせたアリシアの手から以前の怯えや動揺は感じられなかった。