周りも俺と同じことを思っていたのか、ざわざわと囁き合う声の中に


「いやねぇ、どこの子?母親はいないのかしら?」

「警察呼びましょうよ」


やけに深刻そうな顔をして主婦の二人が話している。俺は思わず苦笑いをした。

助けるって選択肢はないわけね



俺がそんな会話に気を取られている間にも、男の苛立ちはピークに達したらしく、泣いている女の子の手をぐっと掴み上げた

大きな手が細い腕に余る


なにやってるんだ



「いっ…」


かき消されてしまいそうな小さな声が俺を呼ぶ。


その瞬間、駆け出してしまった。




「やめろっ」


勢いに任せて男の手から女の子を開放する。男は急に現れた俺に驚いているようだった。逃げるなら今のうちだ。


男をキッと睨み付け、目を丸くして俺を見上げる少女に笑いかけた。



「行こう!」


腕を引っ張る。まだ状況を把握しきれていないのか、足がもつれながらも抵抗一つなしに俺に引きずられる。

俺はそのまま野次馬の中を突き抜けた。



「え、…おいっちょっ!」


後ろで男が何か言ってる。でも無視だ。今更なんだって言うんだ、彼女に酷い事をしておいて。

振り返らずにスピードを上げた。





道路を駆け抜け、いくつもの角を曲がり、

いまいち場所もあやふやな所まで来て、足を止めて、ようやく一息つく。



「…っは、ここまで来たら大丈夫か」