唐突な私の言葉に、先輩は動揺を見せることはなかった。
ただ、私をまっすぐ見てなにかを探っているような気がした。
「そう。」
「はい。」
「…辛くない?」
「辛いけど、今だけですから。」
「本当に?」
ぐっと近づけられた、心配そうな瞳から目をそらす。
「今じゃなきゃ、ダメだと思うんです。」
頑なに言い切ると、先輩はゆっくりと息を吐いた。
そして、言い聞かせるような優しい声で言った。
「君は少し、甘えることを覚えた方がいい。」
「でも、」
「いいから、思ってること全部言ってごらん。」
先輩はどうしてこんなに私の心をほどくのが上手いのだろうか。
甘えるって、どういうことなのかよく分からないけど、頼っていいってことなんだろうか。
「…ほんとは、すごく、怖いです。」
「うん。」
「フラれるって、分かってるですけど。」
「うん。」
「ジャージ返すの、ほんとは口実で。
…先輩に、背中押してほしくて。」
「うん。」
相づちが優しくて、
私の頭を撫でる手が優しくて、
私は今、安心している。

