「瀬川さんに相談されるたび、本当は苦しかった。
蓮に、瀬川さん助けてくれてありがとうって言われたとき、喜べなかった。
最低だ……私…──っ!」
震えが酷くなった。
その痛々しい姿に、もういてもたってもいられなくなった。
中原さんにジャージを被せると、その上から抱き締めた。
「せ、先輩…?」
「ごめん、俺が急かすようなことを言ったね…
変わるって言うのは、なにも好きになることをやめることだけじゃないよ。
大丈夫。中原さんのその感情は、恋をすれば誰でも持つものだから。」
我ながらよく言うよ。
その感情を潰したことがある人間が言う言葉じゃない。
「ありがとう、ございます…」
中原さんが顔をあげそうになったので、俺は力を込めてもう一度抱き締めた。
きっと今、ひどい顔をしてるから。
悔しい。悔しいんだ。
泣かせるほど、中原さんの感情を動かすことのできる戸川蓮がうらやましい。
でも今はまだ、ってだけだけど。
「中原さん、これからはもっと、どんなことでもいいから俺を頼りなよ?」
ごめんね、中原さん。
君が戸川を諦められないように、俺もまだ君を、諦めるつもりはないんだ。

