「チャイム鳴っちゃったし、二人とも教室に戻りな?
夕は、俺が様子を見てくるから。」
言いたいことが言い終わったのか、それとも中原さんが心配なのか、先輩は中原さんの行った方に駆けていった。
重苦しい空気が、暑さとともにまとわりつく。
「…あいつ、なんかあると、右手の拳を握り締めるんだよ…」
溢したような声。
「…え?」
その声に、悔しさが混じっていたように聞こえたのは、私の気のせい?
「俺のせい、なんだろうね。
ごめんね?純。
でもだから、ちゃんといってほしい。」
とうとう、この瞬間が来てしまった。
ねぇ、蓮くん。
ずっと、言おうと思ってたんだ。
中原さんと蓮くんはとっても似ているね。
相手を大事にするところとか、
優しいところとか、
怒り方だって、そっくり。
そんな蓮くんに惚れたのは、誰でもない、私。
いくら中原さんが大切でも、この気持ちは譲れない。
だけど。
これ以上、誰も傷つかないためにも、話さなくちゃいけないんだ。
息をゆっくり吐いて、私は答えた。
「分かった。」
授業の始まるチャイムは、私の耳には届かなかった。

