ドアを開けた瞬間、吹き込んできた打ち付けるような強い雨。 「うわっ…」 小さく声を上げる。 でもその声は、雨に対する抗議じゃない。 手すりの近くに佇む、青い傘を肩に引っ掛けた高い背。 それは、蓮と瀬川さん以外に、初めて見た人影だった。 その背中は、どうやら空を見ているようで、いつかの私と姿が重なる。 何だか気まずい思いにかられて、目的もなしに来た屋上をあとにしようとドアに手をかけた時だった。 「─…お嬢さん。」 優しげなそのテノールに、足が自然に止まった。