今日は、日もいいし何か良いことがありそうに感じた。
いつもと違う電車からのながめ。

電車があまり人気のない駅でとまる。

「春の香りがするなぁ」

ふと僕は思う。

まだなれない道をゆっくりと上ってゆく。

社会人かぁ、大学生活もあっというまにすぎてもう22。

何社も面接を受けて、そのたびに落とされた。

僕は、良いところの大学にも行っていないし、掴みどころもない、ただの平凡な…。

「あ、あれかな?」

少し古びたおもむけのあるアパートが見えた。

名前はカッコ良く付けたのかgateというらしい。

アパートの前には大きな桜の木が植えてあった。

入学式、卒業式、度々みる桜の木は僕が唯一好きな花?木?と、いえるのかもしれない。

母が好きだったのもあるだろうか。

「水樹。お母さんね、桜の木が好きなんだよ。」

「なんで?すきなん?」

「お父さんと、お母さんが出会ったのが桜の満開の時期でねぇ。今でも、その景色は覚えてるのよ。」

「そうなんだ母さん、僕も桜好き!」

「そうかぁ、水樹が4月に生まれて、お母さん、とっても嬉しかった。4月は2人にあえたから。」

「母さん、僕も4月にだれか見つける!」

「そうかぁ、母さん楽しみにしとるなぁ」

___そんな会話をずっと前にした。でも母さんは去年の春。他界してしまった。

「母さん、なんで……、なんで…いくん?……
父さんにもあえた、この時期なのに………」

__悲しかった。大泣きした。

大泣きしたのは何年ぶりか。

涙が枯れるまでずっとずっと泣いていた。

そこに、父さんがきて、

「母さんがなぁ、水樹は春にだれか見つけるちゅー話、ずーと信じとった。水樹は来年は、仕事つかんといかん、泣くな、それを笑顔に変えなさい。」


__父さんがあんなこと言うなんて思わなかった。でも、父さんにいわれた通りに笑顔に変える。


「あ、あのぅ。」

「え?!…」

「ひぇっ!?ごめんなさい!おどかしちゃって…」

「い、いやっ僕が気づかなかったからです!大丈夫です。」 

「…」
「…」

最初に話を切り出したのは向こうだった。
僕は、十分ぐらい無言だったように思えたが、多分、一分たらずの間だっろう。

「あ、あの、…ハンカチ、かしましょうか?」

「え?」

「な、泣いていたから。」

「あっ泣いてた?!あー情けない(笑)」

僕は、急いでシャツの袖で涙を拭った。

「何か、ありましたか?」

優しく僕に問いかけてくれる暖かな存在。
春の日差しも心地が良く彼女の声に少しうっとりしてしまう。

「い、いえ、大丈夫です。多分(笑)」

「何かありましたら、相談とかのるので……宜しくお願いします、大原さん……」