「どうするって…どういうこと?」

 私の声も、水がないまま砂漠を歩いて三日目といったような、どうも上手く声が出なかった。

「どうするって…これからのことさ」

「これからのことって?」

「それは…夕飯とか、風呂とか、明日の用意とか…」

「それだけ?誠也のことは考えないわけ?」

 昇の言葉に、私の頭に血が上った。なんで今の状況が分からない。なんで自分の子供のことを考えられない。なんで誠也のことを考えていない。私は興奮を抑えきれず、机を叩いて立ち上がった。

「まぁ…落ち着けよ」

 昇は私の目を見ず、うつむいたまま言った。

「なんで?なんであなたはそんな風にいられるわけ?信じらんない。自分の子供でしょ」

「いいから座れ」

 昇の声は不気味なほど落ち着いている。

 しかし私の感情は、そんな言葉でおさまるはずがなかった。

「あなた正気?我が子がこんな状況なのに、心配ないの?何一切?それってただの狂気じゃない。誠也は…」

「いいから座れ!」

 怒声が居間中に響いた。昇の言葉は威厳があり、さっきとは大違いであった。

 そんな言葉にやっと説得力を感じたのか、私はなぜかイスに座っていた。

 そして昇は続ける。

「俺達に今できることは何だ。誠也を助けるか。誠也はどこにいる。どこで何してる。当てもなく探すか。なにが楽しい。そんな意味のないことやっても、警察の邪魔か、また違う事件に巻き込まれるか、もしくは楽しいピクニックか。それは楽しそうだ。確かに今、どこかで誠也は泣いているかもしれない、怯えているかもしれない、殺されそうになっているかもしれない。でもな、俺達は今、ここからそんなことが起こらないように祈ることしかできないんだよ。分かってるか。そんなことを言っても、何も始まんないし、変わんないんだよ。お前だけが悲劇のヒロインじゃないんだ。お前だけが可愛そうなわけじゃないんだ。誠也は俺達の子だ。思いは一緒なんだよ。それだけは憶えてろ」