火をつけ終わり、ライターを元の位置に戻すと、鶴見は私に背を向けた。そして最後に一言を残した。
「逸早く見つけるので。では」
その後、警察署で事情聴取をし、しばらく拘束された状態となった。署を出る時、すでに外は暗く、家に向かう車の中は険悪なムードであった。行きは二人で帰りは一人と、どうにも計算が合わないことに、唇を噛みしめることしかできない自分が情けなかった。それよりも、次々とあふれてくる悲哀の気持ちが、私を覆いつくし、ついにあふれ出して、車中を覆った。家がやけに遠くに感じる。
家に着いた時は、すでに辺りは夜となっていた。ポーチにつながる階段を上がると、ポーチの電灯は黄色く、仄暗く点灯していた。誰かがこの家の中に居る。夫の昇か、もしかしたら…。
私は扉を勢いよく開け、ドアを開けっぱなしで、土足のまま家に上がりこもうというような勢いで廊下を走った。そして居間から温かい明かりが薄暗い廊下に照らしているのを確認すると、私はそのドアを開けた。
「お帰り…」
昇は机にひじを突き、頭を抱えながら嗄れた声で言った。
私は肩を落とし、イスに身を任せた。そしてしばらくの間、沈黙が居間を流れた。どちらも切り出そうとしない。時計がむなしく時を刻み続ける。
その中で私の頭には、もちろん誠也のことしかないはずであった。しかし、あの時、ベンチで見た人影のことも浮かんでいた。あれは確かに誠也だった。しかしもしそうだとしたら、そこに誠也がいたはずだ。そんなものも、誠也に会いたい、抱きしめたい、返して欲しいという思いに押しつぶされた。しばらくそんな風に、私の目は一点を見ていた。
テーブルを一様に照らす、天井から釣り下がった電気が炎のように燃え、揺らめいていた。部屋のすみはひっそりとしている。電気は静寂を包む。
そんな時、突如に昇がゆっくりと口を開いた。一回大きく息を吸い、鼻から息を出し、決して落ち着いたようには見えなかった。そしてあぐあぐと口を動かすと、かすれたような声で言った。
「…なぁ、これからどうするよ」
その言葉からは、何も感じられなかった。温かみ、悲しみ、励ましさえもなかった。鳥の声のように、やっと出せた弱い声は、まさに地獄に生きる屍のようであった。
その言葉で、やっと私は我に返れた。
「逸早く見つけるので。では」
その後、警察署で事情聴取をし、しばらく拘束された状態となった。署を出る時、すでに外は暗く、家に向かう車の中は険悪なムードであった。行きは二人で帰りは一人と、どうにも計算が合わないことに、唇を噛みしめることしかできない自分が情けなかった。それよりも、次々とあふれてくる悲哀の気持ちが、私を覆いつくし、ついにあふれ出して、車中を覆った。家がやけに遠くに感じる。
家に着いた時は、すでに辺りは夜となっていた。ポーチにつながる階段を上がると、ポーチの電灯は黄色く、仄暗く点灯していた。誰かがこの家の中に居る。夫の昇か、もしかしたら…。
私は扉を勢いよく開け、ドアを開けっぱなしで、土足のまま家に上がりこもうというような勢いで廊下を走った。そして居間から温かい明かりが薄暗い廊下に照らしているのを確認すると、私はそのドアを開けた。
「お帰り…」
昇は机にひじを突き、頭を抱えながら嗄れた声で言った。
私は肩を落とし、イスに身を任せた。そしてしばらくの間、沈黙が居間を流れた。どちらも切り出そうとしない。時計がむなしく時を刻み続ける。
その中で私の頭には、もちろん誠也のことしかないはずであった。しかし、あの時、ベンチで見た人影のことも浮かんでいた。あれは確かに誠也だった。しかしもしそうだとしたら、そこに誠也がいたはずだ。そんなものも、誠也に会いたい、抱きしめたい、返して欲しいという思いに押しつぶされた。しばらくそんな風に、私の目は一点を見ていた。
テーブルを一様に照らす、天井から釣り下がった電気が炎のように燃え、揺らめいていた。部屋のすみはひっそりとしている。電気は静寂を包む。
そんな時、突如に昇がゆっくりと口を開いた。一回大きく息を吸い、鼻から息を出し、決して落ち着いたようには見えなかった。そしてあぐあぐと口を動かすと、かすれたような声で言った。
「…なぁ、これからどうするよ」
その言葉からは、何も感じられなかった。温かみ、悲しみ、励ましさえもなかった。鳥の声のように、やっと出せた弱い声は、まさに地獄に生きる屍のようであった。
その言葉で、やっと私は我に返れた。


