少し電灯が薄暗かったせいだったからかもしれない。私の目にはもう、涙が流れてはいなかった。目は赤かった。そしてまぶたは妙に重く感じられた。

「…おい。おい、起きろ…おい」

 その言葉を耳にして目を開けようとすると、まぶたにのりをつけたようになっていて、まぶたが重く感じられた。しかも目がスーッとしていて、涼しく感じられた。しかし目が痛い。今も変わらず、目が赤いことだろう。

 頭を起こそうとすると、頭蓋骨と背骨が同時に砕けたかのように痛みが走り、そのまま静止して、この痛みがこれからどうなるかなんて想像さえもできずに、痛みが引くのを待った。悲しくも、こんなことになっている自分が、腑がないようでしょうがなかった。

 痛みが少し引くと、まだ痛みに耐えながらも、うめき声を上げながら昇に返事をした。
「う…何」

「お前、大丈夫か」

 昇は心配そうな顔で私の顔を覗いた。そして続ける。

「これ、買ってきたから、晩御飯。昼から何も食ってないだろう。何かのどを通しとけよ。腹の足しにもなるし。俺は外で食ってきたから、ここに置いとくな。早く食って、早く寝ろよ。もう十一時なんだ。さもないと体がもたないぞ。じゃ、俺、先に寝るから。おやすみ」

 そう言い残すと、昇は私の返事を聞かずに、静かにドアを閉めると、躊躇せず階段をしのび足で登って行った。

 その後、再び一人になり、イスに座って秋の買ってきた弁当を見つめていた。なんか食べるのがもったいなくなってきた。お腹は空いていたが、昇の優しさに度肝を抜かれ、その証でもあるものを食べてはいけないような気がしたからだ。

 そういえば、一方的であった。この弁当も押し付けの形であった。その時の昇の姿を思い出し、笑った。つくづく思うのだが、やはり昇は変わっていない。結婚前の告白の時もそうだった。不器用そのものだった。カッコつけようと思ったら、上手くできない。そんな昇に惹かれてしまったのか、もしくは守ってやりたかったのか、私は昇と結婚した。