シェナの招待で城を尋ねていたリザは、戻るなりワイワイと聞こえてくるやり取りに、扉の影からそっと耳を傾けていた。



“……もしかしたら冷戦状態だったとはいえ、姫の旦那になる方が優しいイイオトコだったら、貴女は後悔するかもしれませんけどね”



クロチェ国を出る前に、カイが冗談めかした口調で言った言葉を……リザはこれまでの間、何度か自分に問いかけていた。



見る人によっては王家に居た頃より、着るものも住むところも質素になったように見えるのかもしれない。



しかし、カイの手を取ってマーセルに来た日から一度だって後悔をしたことなんてなかった。



大切な言葉は今では四つになり、紡がれていく幸福は増えていくばかりだ。



自分のことを案じながら亡くなった母に、今なら胸を張って報告が出来るだろう。



私は幸せです、と。