「構わん、構わん。はようこっちにこい」


目に見えなくとも、長州藩士達が卑しい笑顔で手招きしている光景が頭に浮かぶ。


「はい。どすが、まずはあたし達の演奏をお聞きください」


いつものように口角をあげ、菊田さんに隣の部屋の襖を開けさせる。


そこには新造の子たちが数人いて、襖が開くと同時に演奏をし始める。


私も藩士たちの隣に行き、酒を注ぐ。


「あんた、すんごい別嬪さんだな」


藩士Aに酒を注いでいた手をにぎられる。


「まぁ、おおきに。どすが、そないなこの女に言うてはいけませんよ。旦那様みたいな素敵な殿方にそないなこと言われたら誰だってひとたまりもないわ」


嫌悪感で死ねそうだわ。


今すぐその手をあらゆる方向に曲げたい衝動に駆られるが、それを必死に抑え込んだ。


「はははっ。それはお前もか?」


「さぁ?どうでしょう?」


今だ、と言わんばかりに手をスっと外す。


そんやことも意に介さず、私の答えと微笑に満足だったらしい。ガハハハハと大笑いしている。


「そうか!俺たちは素敵な殿方か!だってよ、お前ら!」


「佐川さん、そりゃ、あんたのことだ!」


藩士Aの言葉に藩士Bが反応すると、それに続いて2人がそれに相槌を打った。


「そりゃぁ、おれたちゃ、天下の長州藩士様ほんやきな!」


調子に乗ってきたのか、それか、お酒のせいか段々男たちの口が軽くなってきた。


「まぁ、旦那様方、長州の方やったさかいすか?あたし、長州の人に命を救われたことがあるんどす」


「そうか!そうか!長州は正義の味方なが。民を助けるのは当たり前なが」


「頼もしいどすなぁ。あたし、そういう人、好きどす」


この中の親分的存在であろう藩士Aにやりたくはないが、肩にコツンと頭を乗せて、藩士Aの腕に私の腕を絡ませる。


男の口から酒の臭いがプンプンして臭いったらありゃしない。殴りたい。こいつ等を個人的に再起不能にしたい。


「そんときの話をしてくれんかい? 」


「はい。あたしがまだここに来る前のことどした。新選組の人らがあたしを追いかけて来たんどす。もう、恐ろしくて、恐ろしくて。必死に逃げて橋から川に飛び込んだんどす。そしたら、新選組の人らは諦めて帰って行ったのはええのどすが、あたし、カナヅチで……。溺れかけとった所を長州藩士の人に助けて頂いたさかい」


真実味が増すように脈絡をつけて、少し涙ぐんでみた。


すると、私の話を鵜呑みにした馬鹿共は


「んじゃ、その眼帯は……?」


「……あぁ、これどすか。新選組につけられたんどす」


「そうだったのか。さぞ怖かったろう」


「おのれ、新選組!こんなか弱い女子に酷いことをする!」


藩士たちは私に同情しながらも、話の重点を新選組に置き換え始める。

いい流れだ。


内心、ほくそ笑みながら、お酒を注いだ。