心ゆくまで菊田さんを笑顔で遊び倒し、気付けばお客さんが一番来る時間になっていた。


菊田さんに着物を着せされ、髪を結われる。


………やっぱり、重い。


何度やっても髪についている簪やなんやらは好きじゃない。


「………笑顔、忘れんなよ」


菊田さんに両肩をポンっと軽く叩かれる。


いわれたとおりに鏡に向かって目を軽く細め、口角をあげた。


「……その調子だな」


運が良く、今日は長州藩士の予約があったらしい。


ここで情報を掴めれば、夜中には帰ることが出来る。


「客が来たら呼ぶからよ」


「よろしくおねがいします」


菊田さんは他の芸妓の支度があるのか、スタスタとこの部屋を去った。


ふぅ……と一人溜め息をする。


頭の中で琴の指使い、笛の押え方、三味線の引き方……全てを復習した。あと、京ことばも。


北海道の方弁が出そうになるのを必死に抑えて話すのが内心やっとのこと。


それをやって何分経っただろう。


菊田さんの足音が聞こえてきた。


「………春風、きたぞ」


「はい。今行きます」


菊田さんの一言にゆっくりと立ち上がり、入口へと向かう。


置屋から出て、店に向かえば、その長州藩士たちの部屋は近かった。


………不用心な奴等。


そう思いながら、菊田さんが一声掛けて襖を開ける。


「初にお目にかかります、春風どす。
新参者ゆえ色々と至れへんトコはあると思うてが、なにとぞ御勘弁下さい」


それと同時に三つ指をついてそう言った。


室内から、感心………いや、卑しいため息が聞こえた。