「あんた、ほんまに目が見えへんん?そうとは見えなかったわ」


お風呂から上がり、着替えをしている途中、桜さんが私に言った。


「本当に見えてませんよ」


「そなん?ま、ええわ。お互い仕事頑張りましょ。じゃ、お先に失礼」


着替えを終えたのか、桜さんは風呂場から出ていく。


「はい」


私も、桜さんがいるであろう方角に礼をした。


まもなく着替えを終えて私も風呂場から出る。


人の気配がしない………。どうやら菊田さんは居ないみたいだ。


だとしてもあまり差し支えはない。部屋への道は分かってる。


でも、菊田さんには少し用があったんだけれど…………。


少しだけ菊田さんがいないことにガッカリしながら部屋に入る。


しばらくして、荒々しい足音が聞こえてきた。これは菊田さんのだ。


「おいっ!……ってなんだ、部屋にいたのか」


「はい。菊田さんがいらっしゃらないようでしたので」


「あ、まだ髪乾いてねぇじゃん」


菊田さんは襖を閉め、手ぬぐいで私の髪を拭いてくれる。


何故か私の前から包み込むような体制で。


私はその手を優しく掴み、止めさせる。


「………?春風?」


菊田さんはそんな私を不思議に思ったのか手を止め、私を覗き見る。


「菊田さん……」


私は掴んだ手を私の前に移動させて呟いた。





















「私のこと、騙しましたね?」


あくまでも私は朗らかに口角をあげた。


菊田さんの肩がギクッと揺れる。


とっさに菊田さんは私の手から自分の手を引こうとするけど、そんなことを私が許すわけがない。


「いやー……あの、そのな?騙してはねぇよ??あー……なんつーんだ?アレだ!アレ!」


「アレ……とは??」


日本人の悪い癖。言葉に詰まった時にはアレ!を使う。エスパーじゃないから、アレでわかるはずないだろう。


「お前、笑顔が黒いぞ?」


「何を仰っているんですか?笑顔に黒いも何もないでしょう」


フフッとさらに口角をあげると、菊田さんのオーラと体温が1~2℃下がる。


………私を騙してた罰、です。












番頭が芸妓にご飯を食べさせるなんて決まり、ないじゃないですか。



ねぇ、菊田さん?