咲洲玲那が変な事を言わないか監視をしたい所だったけれど、生憎、私はにわか遊女にならなきゃならない。


まぁ、私がいない間の監視は山崎さんがやってくれるだろう。


取り敢えず、そこらへんの町娘に見えるように顔面工事をする。


化粧と着付けにはまだ慣れない。これらだけが、唯一目が見えなくてはどうにもならないものだと思う。


「………ふぅ。こんな感じかな」


どんな感じか分かるはずないけれども。


一息ついて、荷物をまとめる。まとめると言っても必要最低限のものだけだ。つまり、先端を加工し、鋭く尖った簪と土方さんから預かった手紙だけ。


それを手持ちサイズの木箱に入れて風呂敷に包んで持つ。


気配に気を配りながら斎藤さんと原田さんが門番をしている門へと急ぐ。


「……おい」


斎藤さんの声がした。


「………斎藤さん」


「春か?化けるもんだな」


原田さんが心底感心したように呟く。


「原田。誰かに聞かれでもしたら困る。早くいけ」


斎藤さんが原田さんを諌め、私に行くように促す。


私は静かに頷いて門の外へと出た。


少し右に行くと、誰かに手を掴まれた。


………だれ?


そう思ったのも一瞬で、すぐに気配が山崎さんのものだと分かった。


「………山崎さんですか」


「そうや。照屋はこっちやで」


そう言って私の手をひいて歩き出す山崎さん。彼は私の目が見えない事を知っている。大阪の出身らしく、変装している時以外は基本、関西弁だ。


「ほな、着いたで」


「ありがとうございます」


山崎さんがいるであろうところへ礼をした。


「ちょいとまっとってな。女将さん、呼んでくるさかい」


「はい」


スッと山崎さんの気配が消える。


彼は凄い。気配に敏感な私でさえ、近くに行かないと気配に気付けない。


「あんたが、土方さんの言ってた子?」


山崎さんの気配が消えて1分と経たないうちに女の人の声がした。


私は頷く。


きっと、女将さんだ。


「土方副長から、女将様へ文を預かってきました」


「あら、どうも」


女将さんの気配がある方へと行き、手紙を渡す。


手紙を読み終えたのか、女将さんの気配に動きが見られた。


「あんた、目が見えないのね」


「はい」


それがどうしたのか、と思いながら頷くと、沈黙が訪れた……というよりも、物凄く視線を感じる。痛いくらい感じる。


内心少しだけ焦り始めた頃、香のいい香りと強い力で包まれた。


…………そう。女将さんに抱き締められたのだ。


「やぁー!!めっちゃ可愛い!なんなのこの子!こんな女の子見た事ない!」


女将さん、興奮なう。凄いテンション上がってる。
女の子とか、さらっと言われたけれども。色々なことは置いといて気に入られたことは分かった。


「あ、ありがとうございます……」


「あんた、名前は?」


「榛です」


「榛ね。よっし、源氏名は春風ね」


「は、はい……」


この時代の人に初めて榛と認識されたことに僅かな感動を抱きつつ、女将さんのマシンガントークに圧倒された。