「…………ん、え?」


私、死んだんじゃ……?


仮に助かったとしても、目が覚めた先は病院であるのが定石だ。


その場合、私の身体を支えているのは柔らかなベッドのはずである。……そう、そのはずだ。


なぜ、私の手に触れるのは明らかな草なのか。このご時世に草のベッドなんて、アルプスの少女くらいじゃないか。


頬を撫でる微風は私を柔らかく弄び、草木の香りは私の鼻をくすぐり、からかう。


私は起き上がり、目に映るはずもないが、周りを見渡した。


この静けさは、夜。


そして、ここはきっと山の中。


でも、北海道ではないようだ。


今の季節は夏。体感気温が全然違う。


ここのほうがずっと暑い。


ここは何処なのだろう。


あてもなくそのへんを手探りで歩いていると少し遠くに足音が聞こえた。


「……だな」


もしかしたら、何か分かることがあるかも知れない。


そう思って、足音のする方へと向かった。


「……あの、すみません」


「何奴!?」


何奴?言葉遣い古くないかしら。


声が低く、汗臭さで男だとわかり、話し掛けた相手を間違えたか?と一抹の不安を抱きながら口角を上げて尋ねた。


「ここは何処だか、教えてもらえませんか?」


「……京だが?」


京……昔の京都の呼び名だ、確か。


この人、趣味でこんな古くさい話し方するの?


趣味であろうと、癖であろうと、男から伝わる強い警戒心と好奇心が私にいち早く撤退することを勧告する。


「……そうですか。ありがとうございます」


「……まて、小僧」


礼をし、その勧告に従いいち早く撤退しようとするが、一歩遅かったらしい。男に肩を掴まれた。


小僧に間違えられたことは…………触れない。