「春です。お茶を持ってきました」


「おぉ、入れ」


近藤さんの一言で静かに入ってくる。


先程は勘で春なら布団を用意していると言ったが、総司が襖が開いている部屋に行ってみると、本当に布団が敷いてあったそうだ。


…………春、お前、どんだけ予知能力高いんだ。


幹部一人一人にお茶を配っていく春。その動きはたおやかで、目が見えないことなど忘れてしまうほど。


……だけど、本当に見えてないんだよな。


そのことを知っているのは、近藤さんと、俺と、総司。あとは観察方の山崎だけだ。


「春、あの女は」


「まだ、静かに眠っているようでした」


お茶を配り終わったら、春は俺の斜め後ろの壁に座る。


「ふぅむ……。女子なのだろう?手荒く扱いたくはないな」


近藤さんが悩ましげに腕を組んで呟く。


「でもさ、あんな子みたことないよ?髪の毛が金色の日本人なんて。しかも、言葉遣いも汚いし」


「外人じゃねぇの?」


「えー…。日本語ペッラペラだったよ。あれは日本人だね」


「おい、総司。どっちだ、お前」


日本人じゃないといってみたり、日本人だといってみたり、よくわらからないことをいう総司に呆れて突っ込んでしまった。


「長州の間者じゃねぇの。ま、それだと相当下手くそな間者だな」


原田が場を和ませるように笑う。


「取り敢えず、話を聞かなきゃどうにも出来んな!」


近藤さんが豪快に笑い、この会議を終わらせようとしたとき


「うわっ………!!!」


ガタガタッと大きな音とともに声が聞こえた。


声が聞こえたところに行こうと腰を上げたとき、既に春の姿はなかった。


あいつは人より臭いや気配に敏感だから、分かったんだな、きっと。


そう考えながら急いで襖を開けた。


「え!?はぁ?? 」


「春っ!!」


春が女を押さえているのを見て、俺は走った。それに気付いた春はこちらを向いて笑った。


「あ!土方さーん。起きたようですよ!」


わ……笑った!?し、しかも、手を振ってる!?


一瞬、幹部全員の思考回路が停止した。


………あ、コイツ、警戒してんだ。女を。


春には、ある癖がある。信頼出来ない人間には人懐っこい少年になる。相手を油断させて、本音を暴く。この癖で俺達は幾度となく、間者を見抜く事が出来た……が、最初の頃は、俺でさえ戸惑った。


多分、いち早く我に返った俺が声に出す事が出来た言葉をこれしかなかった。


「………みたいだな」


情けねぇ………。