「ほら、君、早くやるよ。僕だって暇じゃないんだ」


とてもダルそうな、無愛想な声で私に言葉を投げかける。


「あ………。はい」


私の返事を聞いて軽い足運びで道場に上がってく沖田総司。


私は躓かないように必死なのを隠して、沖田総司に続いた。


「……君、名前は?」


「榛、です」


「………春、ね。女みたいだね」


この人も、勘違いしてる。やっぱり、榛は浮かばないのね。


「………よく、言われます」


まっすぐ前を向いて、必死に沖田総司についていく。


そして、沖田総司の足音が僅かに変わる。


……響きが違う。道場に着いたの?


トンと後ろから来ていた土方さんにぶつかる。


「………んあ?どうした、春」


「…あ、いえ」


「どうかした?あ。もしかしてここに来て、僕に怖じ気付いたとか?」


沖田総司が私をからかうように嘲笑う。


それには流石の私もムカッとする。


「………いえ、そんなことありません」


「あっそ」


凛として返した私に、沖田総司はあまり興味がないように受け流す。


「………竹刀がいい?それとも木刀?」


「…じゃぁ、竹刀で」


「………了解。ほらっ!」


竹刀を投げたのか、ほらっ!を少し力を入れていた。


沖田総司がどこにいるのか、広い道場に声が響く中で当てるのは難しかった。


つまり、沖田総司が投げた竹刀がどこから落ちてくるのか、直前まで分からないのだ。


あ…………来た。


空気の流れで分かっても、僅かに遅かったらしい。竹刀が手からこぼれ落ちた。


「…………あ」


小さく声を出した時にはすでに竹刀が床に叩きつけられた音がした。