出来た料理を運んでいると、前方からドタドタと慌てたように近づいてくる足音が聞こえた。この荒っぽく豪快な足音と気配は、永倉さんだ。


永倉さんが走ることといえば……そうだ。なにかをやらかした時だ。


そう直感した私は、一歩横にずれて、永倉さんのランニングコースを確保する。これで、料理に支障は出ないはずだ。


でも、足音は私を通り過ぎることはなく、それどころか私の前で止まった。


「春、手伝おうか!大変だろ?」


思いやりに溢れた、他意のないような声と雰囲気。それでも、私には『目が見えないお前には』と付け足されたような気がした。


「お気遣い感謝します。ですが、結構です。自分で運べます」


「でも……」


「どうしても、と仰るのなら、台所にまだ配膳できていない料理があります。それを運んでください」


「…………おう」


永倉さんは明らかにしょんぼりと落ちこんだ雰囲気で私を通り過ぎ、台所へと向かってくれた。


あそこまで落ち込まれると、さすがの私にも罪悪感というものが生まれてくる。


心の中で永倉さんに申し訳ありません、と謝り、膳を運ぶべく、再び足を前へと動かした。