「まぁまぁ……。平助をいじめないでくれよ、春」


私と藤堂さんの重い雰囲気に割って入ってきたのは、原田さんだ。


「佐之さん……」


「原田さん、ですか」


幹部の誰よりも落ちてくる声が遠い。身長が高いのだろう。


「平助はまだお子様でなぁ。感情の赴くまま〜に突っ走るんだよ」


「佐之さん!俺は子供じゃねってーの!」


ニヒヒと笑う原田さんと、シャーッと猫のように威嚇する藤堂さん。


「シャーッて……。平助、お前猫かよ」


「猫じゃねぇ!」


「じゃぁ、やっぱりお子様だなっ」


「だから、なんでそーなんだよ!?」


堂々巡りの原田さんと藤堂さんの掛け合い。


……付き合っていられない。


「では、失礼します」


原田さんの気配を避けて、先に進もうとするが、原田さんに右腕を掴まれる。


「ちょいと待てって」


「夕餉の支度があります。申し訳ありませんが、あなた方の茶番に付き合える暇はありません」


「そーかよ! じゃぁ、行けばいいじゃん!!」


「平助〜」


拗ねる藤堂さんを、原田さんは困ったようになだめる。


また堂々巡りの掛け合いが続くのかと内心呆れていると、頭にふわりと人間の体温と僅かな重みがかかった。


「春、お前は無理しなくて良いんだよ」


原田さんの、何もかも見透かしたような優しげな声音に、私は目を見開いた。


無理?……私は、無理なんてしていない。


無理なんてしていないはずなのに、私の心は激しく揺れ動く。


分からない。何故、私は動揺しているんだろう。


「……無理、なんてしていません」


強く、言ったつもりなのに、私の声は存外弱い。


情けない。情けない。こんな小さな動揺すら隠せなくなったのか、私は。


「そうだ。もっと感情を出せ」


私の声は小さかったはずだが、原田さんは聴き取れたらしく、嬉しそうに私の頭を撫でる。


「……佐之さん? 春?なに二人で話してんの?」


藤堂さんの怪訝そうな声で、私は我に返った。