『幸せな家庭を築きたい』。そう夢みていたことは嘘じゃない。菊田さんを断ったことも、その理由も嘘じゃない。


ただ、押しにかけると自分でも思っていた。だけど、それ以外に私が新選組を選んだことの重大さを伝えられない。


内心、必死になりながら少し早口で言うと、沖田さんは殺気を向けなくなった。


謹慎が解けたことに一安心していると、咲洲に右手首を掴まれて引っ張られた。


そして、どこかの部屋に入るなり、手が離れた。


「あっっっぶない真似しやがって!!!」


そして、怒られた。


なぜ咲洲が怒るのかが分からず、首を傾げると、咲洲は溜め息をついてまた怒った。


「沖田に斬られてたらどうすんだよ!」


なるほど。つまり、咲洲は私が一か八かの賭けに出たことを怒っているのか。


でも、咲洲が怒る理由はないのに。咲洲に危害は加わっていないし、迷惑だってかけていない。


「あなたに危害は加わっていない。何故怒るの」


「私はただ怒ってんじゃねぇの!!ハルを心配したから怒ってんの!」


また、咲洲は怒鳴る。まったく意味が分からない。心配しているのに何故怒るの。


私はまた、首を傾げた。


「あ゛ーっ!伝わんねぇな!」


くしゃくしゃと何かを弄る音がすると、咲洲の気配がぐんと近くなって、人の体温に包まれた。


「ハルに話すとなるといちいち理由つけて行動しなきゃいけねぇんだよなぁ……。私は、怒ってる。あんたが危ない真似をしたことを。でも、それ以上にハルを心配してるんだ」


咲洲は先程よりもずっと優しい声で私に言った。


怒ってるけど、それ以上に心配をしている。だから、咲洲は怒鳴ったのか。


咲洲の衣服から香るローズの柔らかい香りも手伝って、腑に落ちた気がした。