驚きで数分固まってしまったが、はっと我に返って、ハルの部屋の障子をスパァーンと開けた。


「ハルッ!どゆことッ!?」


「うるさい」


ハルは、部屋の真ん中で、刀の掃除的なものをしていた手を止めて、顔をしかめた。


「この時代の人間じゃないって、意味深な言葉残してくなよっ!!」


唐突過ぎて、信じられないので、テストをする。


「選ばれたのは」


「………鮎鷹でした」


「Let's share」


「……パッキー」


「うん。確かに未来っ子だな!」


抜き打ちでも、未来の有名CMのキャッチコピーを言えたのは、決定打だ。


仲間がいた嬉しさに、思わずハルの顔に私の顔を近付けてしまう。



目と鼻の先に顔を近づけたのに、ハルは私を視ることもせず、再度、刀の近くを見る。


………………ん?


私を視ない?おかしくね?


普通、人の顔が近付けば、寄り目になるなり、一瞬でも必ず人の顔に視点が合うはずなのに。


よく見てみれば、ハルは刀を視ているようで、少し違うところを見ていた。


まさか………………?


「…あの、さ……ハルって……目、見えてない?」


恐る恐る聞いてみる。間違っていたら失礼だが、それでも確かめずにはいられなかった。


これまでのハルの行動を思い返すと、少し不可解なことがあるのだ。だが、それも、目が見えないのなら、説明がつく。


「気付かれた……か」


ハルは少し残念そうにそう呟いて、コクリと頷いた。


嘘……だろ?


自分で聴いたのに、信じられない。


「え……でも、料理してんじゃん!!それに、観察方だってしてるし。……だって、だって、さっきだって戦えてたじゃん!!」


ハルが嘘をつくはずがない。


分かっている。分かっているんだけど。


どこか理解出来ない自分がいた。


「私が料理出来るのは、現代でもやっていたから。観察方をしているのは、視覚以外が優れているから。戦えるのもそのおかげ」


私の動揺を知らないふりして、ハルはまるで他人事のように答えた。


「土方、知ってんの?近藤さんは?ほかの皆は?」


「土方さん、近藤さん、沖田さん。それに斎藤さん、山崎さんは知ってる。その他は知らない」


土方………その名にピクリと反応する。


あいつ……。平和な時代に生まれた子、ましてや目の見えない女の子を観察方なんて危険な仕事させるなんて……!!
いくら知らなかったからって許せん!!


「……咲洲?」


理不尽な怒りに震える私に、ハルは怪訝そうに声をかける。


「ちょっと、土方に文句つけてくる!!」


「え?……あっ……ちょっ、やめ…」


ハルの制止も聞かずに、私は飛び出した。