羞恥と後悔の峠を越え、落ち着いたらしい咲洲。


「…………ご、ごめん……」


咲洲は少し恥ずかしそうに言って、私を解放する。


「別に……」


…………憑き物が落ちたように、肩が軽い。


あまりの軽さに、不謹慎だと分かりつつも、肩をぐるぐると回してしまう。


「………なぁ、ハル。なんで、皆わかんねぇのかな……?」


ふいに、咲洲が寂しそうに呟いた。


「……何を?」


「ハルのさ、根っこの優しさだよ」


「……やさ、しさ……?」


咲洲の言っていることが分からず、思わず首を傾げた。


優しさなんて言葉は私には似合わない。


ずっと、そう思ってきたからだ。


自分の為に繋がるようなことしか、した覚えがない。


「なぁ〜に謙遜してんだよっ!私とハルの仲だろっ」


それを、咲洲は謙遜していると勘違いしたらしい。背中をポンと叩いてきた。


痛むかと身構えたが、思ったより傷は塞がっているらしく、さほど痛まない。


身構えたせいで、答えるのが数秒遅れてしまった。


「……咲洲相手に、謙遜なんて必要ない」


「……そーかよ」


冷たく返せば、咲洲は少し呆れたようにそう言った。


「私は、自分が優しいなんて、思ったこと…ない」


「それは、ハルが気付いていないだけ。ハルは優しい。人一倍優しいよ。そう思ってる」


咲洲は、すごく優しい声音で、私の頭をくしゃくしゃと撫でた。


完全に年下扱いされてる。


それが、少し気に入らなくて、その手をパシリと払った。


「あなたがそう思ってるだけ……」


「そーか?人を見抜くことは、喧嘩の次に得意なんだけど」


明るさに隠された、暗い声音。人を見抜くことは、咲洲のトラウマになにかしら関係しているのだろう。


「……そう」


でも、明るさの中に暗さを垣間見せたのは一瞬で。


「そういえば、二人きりでこんなに話したこと、初めてだなっ!」


「そうね」


咲洲に言われて、気が付いた。


まともに話すのは、意外にも初めて……だったんだ。