咲洲が縛ろうとすると、佐久田はまた暴れだしたので、仕方なく、咲洲にボコボコにしてもらった。


正直、咲洲の強さは予想外だった。


少なくとも、隊士になることを認められるほどの腕はあることは認識していた。


だけど、まさか、武器を持った相手に素手でボコボコに出来るほどなんて。


咲洲の意外な戦闘能力に驚きつつ、山崎さんを呼んでください、と頼んだ。


咲洲は快諾してくれた。


「山崎を呼べばいいんだな。了解!」


何故か佐久田をズリズリと引きずりながら、部屋を出て行った。


咲洲の足音が聞こえなくなった頃、私は静かにため息をついた。


……咲洲が来なければ、危なかった。


今回ばかりは、咲洲にきちんとお礼を言わなければならない。


身体があんなに私のいうことを聞かなかったのは初めだ。


何故、佐久田と夏希ちゃん、あの男がダブって見えたのか。何故、『人殺し』の言葉に私の身体が硬直したのか。


………何故、昔のことが現在(イマ)にこんなに干渉してくるのか。


『人殺し』なんて言葉は言われ慣れているはずなのに、今更………。


自分の身に起きたことなのに、何一つ分からないことだらけ。


だけど、一つだけ、分かることがある。


佐久田に『人殺し』と言われた瞬間、夢と同じく私の中の無意識が作り上げた何かが壊れた音がした。