再び目を覚ました時には、背中の傷も、それほど痛たくなっていた。


「……春、起きたか」


コトン、と何かを置く音と、冷たさの中に温かみを感じる声が聞こえた。


「……土方さん」


「背中はどうだ?」


「もう、それほど痛みません」


「そうか……」


「あの……皆さんは……?」


「……あぁ。夜も遅いからな。寝ている」


「……私は、切腹でしょうか?」


どこか居心地悪そうに受け答えする土方さんに直球で聞いてみた。


「それはないな」


土方さんはキッパリといいきる。


「それでは離隊でしょうか?」


「それも、ない」


隊士の処罰について土方さんがないと言ったことは絶対にない。つまり、私の処罰は切腹と離隊以外ということだ。


その2つが外された今、私の頭に残る選択肢は拷問しかない。


今まで必死に回避していた拷問とついに顔合わせさせられるか。マジか。


「春の……いや、お前の本当の名は?」


頭の中が拷問のことしかなかった私に、土方さんは拍子抜けするようなことを聞いてきた。


「榛です」


「いや、本名を……」


「季節の春ではなく、はしばみの榛です」


「そうか。はしばみのほうの榛か……」


そう呟いた土方さんの声は、少し嬉しそうだった。


でも、そう感じたのは一瞬で、すぐに土方さんは暗い雰囲気を纏う。


「……榛」


「はい」


「…………間者の疑いが晴れるまで、謹慎とする」


土方さんの重い口から発せられた処罰は“拷問”ではなく、“謹慎”。


わかってる。わかってるの。これは、私のための謹慎。私の身の潔白を証明するためのもの。


だけど……不安だ。どうしようもなく。


「……榛?」


「…………あ、はい。分かりました」


私の不安は大きく分けて二つある。


一つはハッキリとしている。


「私がいない間の間者にはお気を付けください」


「分かってる。居るのなら、榛がいないのをいいことに動く」


この新選組に潜んでいる間者のことだ。


しかし、その不安は要らなそうだ。土方さんも分かってるから。


でも、もう一つの不安が分からない。心の中に黒くあるものだが、その核が分からない。


私は顔をしかめた。


「どうかしたか?」


そんな私に土方さんが心配そうに肩に手を置く。


「痛むか?」


近くなる、土方さんと私の距離。


なんだろう。心臓がバクバクする。


突然の体の変化に内心首を傾げながら、痛くないと首を横に振った。


「そうか。痛くなったら言え」


すると、土方さんは安心したようにほっと息を吐いて、私の頭の上に手をぽんと置く。


たった一瞬のことだったのに、私の心臓はさらに大きな音をたてる。


だけど、心臓がバクバクするだけじゃない。安心感がある。


その安心感の心地良さにゆっくりと目を瞑った。


不思議だった。


先ほどまでは正体のわからない不安でいっぱいだったのに、今は土方さんの安心感に満たされていた。