真っ暗な世界で

ぼんやりと赤い光に照らされた春の顔は見たことがない程苦痛に歪んでいた。


手が血だらけで、悔しそうな顔をする斉藤。


泣き叫びながらひたすら春の名前を呼び続ける咲洲。


「あかん!これじゃぁ誰の血なのか分からへん。返り血浴び過ぎや」


早くも汗だくになりながら必死に春の治療をする山崎。


俺は、俺は…………何をしているんだ?


大切な小姓が苦しんでいるのに、俺は、何をしている?


───行け!!早く!!


俺の脳裏に、俺の知らない俺の声が響いた。


普段、俺はそんな声は信じない。


だが、何故か今は無意識にその声の指示に従った。


必死に春に走り寄る。


俺に何ができるか分からない。


むしろ、邪魔になるかも知れない。


だけど、春の近くに行かないといけない気がした。


「山崎!!」


「副長……」


山崎は珍しく不安そうな気色を露わにする俺に目を見開いた後、すぐに春の背中を見て、苦い顔をする。


「屯所に戻ります。縫合せんと」


俺にそれだけ言って、山崎は立ち上がる。


「ハルは、ハルは助かるよな……!?」


立ち上がった山崎に咲洲は掴みかかる。


だが、山崎は浮かない顔でキッと咲洲を睨み付けた。


「そんなん分からへん!今は春の治療が優先!邪魔や」


山崎は、咲洲の手を払い、近くにいた隊士に担架を持ってくるよう言った。


「申し訳ありません!屯所にある担架は壊れていて……」


「なっ……!担架が壊れるなんてあるのかよ!」


咲洲が今度はその隊士の胸ぐらに掴みかかる。


「あるから、こうなってるんだ!!」


「そんなことはどうでもえぇ!出来るだけ体を動かさずに早く運べる方法を考えろ」


「俺が運ぶ」